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お金がなくて辛くて、ふらふら夜道を歩いていると宝くじを見つけました。携帯でサイトを開いて当選しているか調べると、やっぱりハズレ。当然か、と肩を落としその場に捨ててやろうか考えましたが、培ってきた道徳に触れそうだったのでゴミ箱を探すことにしました。

しばらく歩くと木に囲まれた公園につきました。木々は月明かりも街灯も公園に立ち入ることを許しません。そのせいで公園の闇は深く怖かったのですが、ポイ捨てをするわけにもいかないので、ゴミ箱を探しに足を進めました。

公園に入ると、言い争っている声が聞こえてきました。僕は足先に細心の注意を払い、身を声の方へ近寄ります。バレてしまってはいけないと思い、近くにあった茂みに体を隠しながら耳をそば立てました。

「男女は血が繋がってなくても、書類で契約を交わせば家族になれるのに、同性同士はそれができないっておかしいよ」現代的な意見だなと思い、茂みから頭を少しだけ出して、声の主をみました。それは立派なアゴギラファノコギリクワガタでした。クワガタは小学校5年生くらいの大きさで、僕は思わず叫びそうになりました。ですが、昔から昆虫が好きだったので、なんとか声を漏らさずに耐えることができました。

何度か深呼吸をし、早まる心臓を宥めるとデカアゴクワガタの奥に何かいるのが見えました。

「オス同士じゃ子供は作れない。僕らは子供を残さなきゃいけないんだよ」

こちらもクワガタでした。デカアゴクワガタよりも小さいですが、130cmぐらいはありそうです。

僕は産まれて初めてのクワガタ同士の論戦を目にして、また叫びそうになりました。喉まで出かけていた声を押し殺し、また耳を澄まします。

「そんなの関係ないよ、虫ってこの世に何匹いると思ってるの?繁殖なんて他の奴らに任せたらいいじゃん」

「もう僕らは幼虫じゃないんだ。好きだけで恋愛できないよ」130cmのクワガタの方が小さく顎を振りました。

夜の闇が2匹と1人を抱きしめています。僕はたまらなく気まずくなって、スタンドバイミーを口ずさみながら、立ち上がりました。すると2匹は慌てて羽を広げ、夜の空へと飛び立ちました。彼らはどんどん小さくなっていき、闇に溶けました。

アイスを買おう。僕の頭にそんな考えが浮かびました。お金はないけど、5000円くらいなら出せる。2匹が同じ未来を歩めることを祈りながら、アイスを食べよう。

思い立ったときには、すでに地面を蹴り公園から飛び出していました。そして僕も夜の闇へと紛れました。